勝手に更新される毎日

六本木で働くサラリーマンのブログです。やめてくれ、待ってくれと言っているのに、1日1日が勝手に過ぎていきます。

アジフライ3枚による俺たちへの提案

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敬愛する漫画家・福本伸行先生の作品の中でも一番の名作だと個人的には思っている最強伝説黒沢の中に、こんな一節がある。
 
(主人公・黒沢が職場の若者たちに連れて行かれてファミリーレストランを訪れるときの心の声)
 
オレは…
もうずいぶん長く…
このファミレスってやつが苦手だった…!
 
だいたいネーミングが傲慢だ…!
 
あっさり言い切るが、
世の中にはな、
ファミリーに縁のない奴だって、
いっぱいいるんだぞ…!
 
拒絶する気かよ…!
このレストラン群どもは…!
 
オレたち…
シンガー(独り者)を…!

 

ファミリーレストラン

主なターゲット層(ファミリー)を規定した時、サービスの呼称そのものに入れてしまうというのは、ターゲット取り込み策としては最もシンプルかつ強力のように思える。
が、その副作用として事業者側が意図するしないに関わらず生まれる、ターゲット層から外れた人が受ける疎外感を、見事な洞察力で切り取った名シーンである。
少なくとも同じシンガーである俺は、こんなことは考えたこともなかった。
 
ただ最近、これに近いことが身の回りにあった。
 
 
俺の家の近くには「ヨークフーズ」というスーパーマーケットがある。
 
6年前に一人暮らしを再開して以降ほぼすべての食事を外食で済ませてきた俺にとっては、ここは週に1回、酒とグレープフルーツジュースを買うためだけに訪れる場所だったが、コロナ感染が広まってからは家にいる時間が長くなり、家で食事をする機会も増えたたことで、スーパーで酒以外の物も目に留まるようになった。
 
何を隠そう、俺の一番好きな食べ物は、アジフライである。
「知らんがな」「興味ないわ」と思う人も多いだろうが、ブログなんてそんなものだろうから容赦してほしい。
 
ある夜、夕食をする食材を買おうと店に入った。
当然、アジフライを買って食べようと思い、揚げ物売り場に直行する。
アジフライが入ったプラスチックのパックは大量に並んでいる。
うんうん、やはり俺に限らずアジフライを好んで食す人が非常に多いことの証左に違いない、そりゃそうだ、こんなに美味いものはそうそう無いからね。
とうなずきながら、俺もみんなに負けじとアジフライウェーブに乗っかるべくどれを買うか物色していた。
すると、なんということだろうか、すべてのパックがアジフライ3枚入りであることに気がついた。
生憎俺は夕食でアジフライを3枚も食べるほどの大食漢ではないし、しかもアジフライなんてものは揚げてからすぐ食べるのが美味いのであって、実際、提供元のヨークフーズが推奨する賞味期限も当日中であったから、明日以降に残したくもない。
もちろん、捨てるわけにもいかない。
したがって、俺はアジフライを諦めるしかないのである。
 
 
アジフライには目がないこの俺にアジフライを目の前にして諦めさせる「ヨークフーズ」とはいったい何者なのか。
株式会社ヨークのホームページには、このように記載されている。
 
高齢化や女性の社会進出の増加、世帯人口の減少等を背景とした社会構造の変化の中で、お客様の生活スタイルや価値観が日々大きく変化しています。そのような流れの中、私たちは、それぞれが培ってきた企業文化を融合し、互いのノウハウを活かしあいながら首都圏における「新しい食提案型のスーパーマーケット」を創造すべく事業に取り組んでまいります。
 

 www.york-inc.com

つまり、アジフライを3枚入りで提供するのはヨークフーズによる「新しい食提案」であり、それはすなわち、すべての家庭は3人以上であるべき、もしくは単身者は1日に3枚のアジフライを食べるべき、という新しい提案である。
1日に3枚のアジフライを食べる大食漢以外は3人以上の家族を結成するべき、単身で暮らすことなど許されない、ということだ。
 
とここまで書いて、さっき1週間ぶりにヨークフーズに行ってみたら、アジフライ1枚入りのパックが売られていた。
俺が行った時は、売り切れていただけだったのだ。
ただ思うのは、毎回売り切れていたということは、1枚パッケージの「食提案」の方が支持されていることの表れであろう。