勝手に更新される毎日

六本木で働くサラリーマンのブログです。やめてくれ、待ってくれと言っているのに、1日1日が勝手に過ぎていきます。

謎解き、広告、ダム、そして仮想通貨…これらの共通項と返してほしい金

1, 2, 4, □, 16, 32, 64, 128, …
この□に入る数字はなんでしょうか?


私は、この手のクイズが嫌いである。
謎解きが流行ってから、よく見かけるようになった。
実際には、良問とされるクイズはこれほど単純ではないが、今回の主旨は、問題の完成度が高いとか低いとかにはなない。
私がこの手のクイズを害悪だと感じるのは、「規則性」というものに対する人々の舐めきった態度を、この設問が代表していると考えるためである。

上の問題であれば、答えは「当然、8です」と言いたくなるだろう。
しかし、実はこれは「当然」ではない。
それどころか、場合によっては不正解かもしれない。
物事はそこまで単純とは限らないのだ。
にも関わらず、クイズクリエイター(なんだそれ)がドヤ顔で、「正解は…8です!」なんて言っているのを見ると、「そんな規則どおりになるわけねえだろ」という、ツッコミを超えて反骨心にも似た独り言が思わず飛び出る。

実際、上記の問題であれば、前からn番目の数字を
\[a_{n}=2^{n-1}\]

という数式で表現することができる。

しかし、数学界では常識らしいのだが
「数列の一部から、その続きを類推することは不可能」
だそうである。
私はこれを高校生のときに数学の参考書かなんかで読んで、驚きのあまり感動すらしたことを今でも覚えている。

実際、上記の数式も、ちょっと工夫して
\[a_{n}=2^{n-1}+(99999-2^{n-1})\frac{\left(n-1\right)\left(n-2\right)\left(n-3\right)\left(n-5\right)\left(n-6\right)\left(n-7\right)・・・}{\left(4-1\right)\left(4-2\right)\left(4-3\right)\left(4-5\right)\left(4-6\right)\left(4-7\right)・・・}\]
と変化させれば、□は8ではなく99999になるし
\[a_{n}=2^{n-1}+(\pi-2^{n-1})\frac{\left(n-1\right)\left(n-2\right)\left(n-3\right)\left(n-5\right)\left(n-6\right)\left(n-7\right)・・・}{\left(4-1\right)\left(4-2\right)\left(4-3\right)\left(4-5\right)\left(4-6\right)\left(4-7\right)・・・}\]
とすれば、□はπになる。

つまり、数列の規則性なぞ、問題作成者の意思でどうとでも取り繕うことができるし、見るものの目を欺くこともできるのである。

数列ですらそうなのだから、ましてや人間など言うまでもない。
「あいつはこういうやつだから、こういうときにはこうするに違いない」
などと予想することなど無意味であり、また、人格の奥深さを過小評価している点で失礼でもあり、あまりにも浅はかで、滑稽ですらある。

もう20年も前のことだが(これを書いていて、もうそんなに年月が経ったのかと、自分のことながら驚いたが)、私は、新卒で入社した広告会社での採用面接で
「いまの広告に必要なものは何だと思いますか?」
と問われ
シュールレアリスムです」
と回答した。

「いま言った『シュールレアリスム』とは、一種の『不連続性』のようなもので、いまの消費者はあまりに広告に触れる経験に慣れすぎているため、いかにも広告っぽい広告に接触すると『あーまた広告か』と、広告であると認識された瞬間に無視される運命にある。この状況を打開するために、もっと『シュールレアリスム』的な発想を広告表現の制作過程に取り入れるべきなのではないか」
みたいなことを言った。
この頃から、私は連続性や規則性といったものが苦手だったようだ。

ちなみに、ここでの「シュールレアリスム」は誤用らしく、正しくは「超現実主義」という意味だとあとになって知ることになるのだが、日本ではなぜか「シュール」という言葉に略され、意味的にも誤用のまま幅広く使われてしまっているようだ。
詳しくは難しいのでこちらで。
ja.wikipedia.org

これは余談だが、他にも
「最近見た、好きな広告はなんですか?」
という質問に対しては
江角マキコが出ている年金のCMです」
と答えた。

当時、社会保険庁が行った「年金をちゃんと払いましょう」という内容の広告キャンペーンがあり、CMで国民年金未納者を問い詰める江角マキコが、実は年金を払っていなかったことが明らかになり、大問題になっていた。

俺はこのCMを挙げた理由を
「あえて年金未納者をCMキャラクターに据えて、後になってから未納が明らかになって叩かれまくることで、CMがめちゃめちゃ話題になり、若者も『こんな恐ろしい目に遭うなら絶対に年金を払おう』と心変わりをすると思います。ここまで計算され尽くした広告キャンペーンは類を見ないと思います」
と説明した。

しかし、当たり前のことだが、年金未納のタレントをそれとわかっておきながらわざと起用するなんてことを広告制作者が行うわけがなく、当時の担当者はさぞかし大変な思いをしたであろう。
20年近くの社会人経験を経た私とっては明白だが、その程度のビジネスマインドは学生でも身につけていているべき最低限のものであり、そんな社会常識も持たず呑気に「類を見ないと思います」などとほざくのは、世の中を舐め腐っている証左であり、私が面接官であればこのような学生は真っ先に落とすであろう。

突然だが、私はダムを訪れるのが趣味である。
ある日、「ダムのどういうところが好きなんですか?」と尋ねられた。
私はダムの魅力など考えたこともなく、ただ漫然と「かっこええなあ」と口を開けて見上げていただけだったのだが、それをそのまま口に出すと「こいつ何も考えていないな。唯の阿呆か」と思われるに違いなくそれは恥ずかしいので、なんとかその場で答えをひねり出さなければならない。

「ダムって、ちょっとシュールレアリスム的なところがあるんですよね。つまり、ダムがある場所ってだいたい辺鄙なところで周りは全部大自然なんだけど、大自然の中にいきなり巨大人工物がドーンってあるわけです。その自然と人工の不連続性が、なんか面白いんですよね」

こう答えて、初めて気がついた。
やはり私は、不連続性に惹かれるのである。

私は、ある海外の取引所で仮想通貨を保有している。
基本的には放置しているのだが、ある日、ふと気になってアクセスしてみると、その取引所は消滅予定であると書かれていた。
「もうこれ以上取引はできません。完全に消滅する前に、なるべく早く出金してください」と大きく注意喚起されていた。
あわてて別の取引所に口座を開設し、資金を移動させようとするが、何度やってもうまくいかない。
Q&Aの記載に従って各通貨のステータスをまとめているページへ移動すると、私が保有する通貨の欄には「Currency Maintenance」と書かれている。
「Fromなんとか」の欄を見ると、かれこれ1ヶ月も前からメンテナンスしているらしい。

それ以上の説明が無いので何もわからないが、メンテナンスが終了して正常に資金移動が可能になる前に取引所が消滅する可能性だってある。
そんな馬鹿な話があるか。
塩漬けになっている額は、大金ではないが、簡単に諦められるほどの少額でもない。

仮想通貨を支えるのがブロックチェーンと呼ばれる技術だというのは、有名な話である。
この技術によって、仮想世界に現実世界と同様の「連続性」が与えられるらしい。
bizgate.nikkei.com

つまりメンテナンス中の今は、「不連続」ということである。
それが私の資金が返ってこない理由なのであれば、私は「不連続性好き」を返上したい。
早く金を返してくれ。