勝手に更新される毎日

六本木で働くサラリーマンのブログです。やめてくれ、待ってくれと言っているのに、1日1日が勝手に過ぎていきます。

ビール、それは私の心を折るには十分である

最近、ジムに通い始めた。

私の記憶が正しければ、5年ぶり4度目のことである。

 

これまで健康診断において何かにひっかかったことがなかったが、齢四十も過ぎれば身体のどこかにガタが来るのも避けられないようで、前回の診断では初めて「血糖値が高い」と指摘された。

今のところは大層なことではなく、節制して様子を見てねってくらいのことなのだが、病状が進行して糖尿病にでもなれば大変厄介で、それを避けるためには、生活習慣を改めなければならない。

進行を食い止めて健康な状態に戻るためには、運動をする習慣を身につけるのが王道だ。

しかし、継続的に運動をするのには、強い決意と精神力を要するものである。

これまでも、よーしいっちょやったろかと奮起してジムに入会したことは何度かあったが、走ったり重いものを持ち上げたり下げたりするのは大変しんどいので、最初のうちは頑張っていても、しだいに、「今日はちょっと脚が痛いからやめておこう」だの「今日は二日酔いだからやめておこう」だの「今日はなんかムシャクシャするからやめておこう」やら、挙句の果てには「今日は仏滅だからやめておいたほうがよさそうだ」などと勝手に理由を作って自分に言い訳をし、しだいに行く頻度が減っていく。

そうなれば、全く行かなくなるのは時間の問題だ。

 

先日、同世代の知人と飯を食っていたときに、その者もアラフォーの呪縛にはまったのか、「この間はじめて脂肪肝って言われたんです」と言い出した。

 

「俺も高血糖だってさ。やっぱ四十になったら無事ではいられないんだね」

「そうなんですよ。でもそんなに暴飲暴食してるわけでもないし、あとは運動するしかないんですけど…」

そいつも私と同じようなジム遍歴を持っていたようで、これまでの傾向を脱却しサボらないようにするためには何かしらの強制力が必要と判断したらしく、「ふたりでジムに通いませんか」と提案してきて、渡りに船と思った私は、その場で2人でジムに行く日程を決めた。

何の予備知識もないが、高血糖にも脂肪肝にもまずは有酸素運動が第一じゃね?糖も脂肪も燃焼する感じがするし、と、我々はランニングマシンで走ることを、ジムでのメインの活動とすることにした。

2人がそれぞれ住むところの間を取った通いやすい場所にあって、かつ公営であるため利用料がリーズナブルであるそのジムは、マシンの台数が少なく、多くの人が利用できるようにと1回あたりの利用時間を30分以内に制限しており、そのためかそれとも偶然なのかはわからないが、マシンの1回あたりの稼働時間も30分より長くには設定できないようになっていた。

どれだけ走れば血液中の糖分量と肝臓の脂肪量が減じる効果が生まれるのかわからないが、とりあえず30分は走ろう、我々はそう決断し、マシンの上に立った。ちょうどいいペース配分もわからないため、とりあえず適当なスピードで走り出したが、3分ほど走っただけで息が切れ始めた。

こんなペースで30分もつのか、私は早くも強烈に不安を感じ始めていた。

 

私と同じようなことを思う人は多いのだろう、このランニングマシンには、走る人を鼓舞して士気を高める素晴らしい機能が搭載されていた。

走り始めてから消費したカロリー量とそれが食べ物や飲み物に置き換えるとどんなものに該当するか、が液晶画面に表示されるのだ。

しかも、「あとちょっと走れば○○1個分のカロリーを消費できるからここまでは走りきろう!」とメモリ表示があらわれ、通過すれば、次にそれよりちょっとカロリーが高いものが出てきてまたそれが目標になる。

いわば、常に目の前に人参がぶら下げられているような状態だ。

素晴らしい配慮だ、秀逸な機能だ、私は最初のうちは感心していたが、走り続けているうちに、絶望的な気持ちへ変わっていくことになる。

 

まず最初に現れたのは、かき氷だった。

これはすぐ通過してしまった。

当然だろう、かき氷のカロリーなんて、あの最後にたらーっとかけるシロップ分だけなのだ。

あれのカロリー消費に手こずっているようでは、先が思いやられる。

 

次に現れたのは、いちごだった。

いちごのカロリーなど意識したことがないからわからない。

というか、いちごなどそう頻繁に食べるものでもない。

とはいえ小さいものだから、カロリー量も大したものではないのは想像がつく。

これも難なく通過。

 

正確には覚えていないが、その次か次の次あたりに、目玉焼きが出てきた。

俺はこのあたりで息を切らし始めていた。

これだけ走って目玉焼き1個分にしかならないのか。

しんどすぎる。

俺はもう、トーストに目玉焼きをのせることは金輪際しないだろう。

 

そして食パンだのフライドチキンだのが出てきて、ぜえぜえはあはあ言いながらやっとの思いでそれらを倒した俺の前に、次に現れたのはビールだった。

 

ジョッキに入ったビールのイラストを見て、俺の心は折れてしまった。

 

え?ビール?まだビール1杯のところまで来てなかったの?

ビールってこんなにカロリー高かったの?

「とりあえずビール」なんて言ってるやつ全員殴りたい。

飲み会に行ったらだいたいビールを4~5杯くらい飲むけど、チャラにしようと思ったらこれを5回も走らないといけないのか?

 

心が折れた格闘家は、ダウンしていなくてもギブアップしてしまう。

それはランニングマシンの上の素人ランナーも同じだ。

私はビールを見たあたりからなぜか急に膝の痛みを感じるようになり、走れなくなってしまった。

膝が痛いと走れないから仕方がない、と言ってしまえばその通りだが、打ち砕かれた私の精神が運動を中断する理由を作るために膝の痛みを作り上げたに違いない、と私は自分の身体に無意識下で起こった現象を分析した。

 

ランニングマシンのメーカーの方に言いたい。

あのタイミングのビールだけは逆効果である、と。

俺は家でこれを書きながら、途中で冷蔵庫に向かう。

取り出したのは、輸入ビール。

輸入ビールだから、カロリー表記がない。

これなら安心して飲めるから有難い。