いい歳になってくるとどうしても、日々の生活を、変化が乏しいルーティン的なものに感じてしまいがちである。
コロナが出てきて外出自粛するようになってからはなおさらだ。
「今までやったことがない新しい経験が必要だ」
そう思った俺は、先日IQテストを受けた。
「なんか新しいことを」で、なぜIQテストを選んだのか。
そのきっかけは、少し前にスマホをいじっていて偶然出てきたバナー広告。
そこには「IQを測ってみましょう」とあった。
軽い気持ちでやってみたら結果は121。
その時はかなり深酒をして酩酊状態だったこともあり、「これは俺の真の実力ではない」と意気込んで、翌日もう一度やってみると、結果は130。
昔どこかで聞いたことがある。
IQが130を超えれば、かの有名なMENSAに入れるかもしれないらしい。
ということは、あのスマホ広告のテストがどれくらい信憑性があるのか知らんけど、ひょっとしてひょっとしたら入れるのではないか。
(正確には、上位2%のIQであれば入会資格があって、だいたい130以上がそれに該当するらしい)
「どうも、MENSA会員です」
と言ってみたところでどうせ出オチにしかならないだろうし、そんなことでMENSAを使うのも失礼千万な話だが、俺は新しい経験をしなければならないのだ。
そう思って入会方法を調べてみると、現在はコロナの影響で入会テストを開催しておらず、各自でIQテストを受けられる施設に行って、でもってテストを受けて、結果が書かれた証明書を郵送することで、入会テストの代わりとしているらしい。
受けたのは「WAIS-Ⅳ」というテスト。
内容を明かすと対策をする人が出てきてしまい、正確な判定ができなくなって困るらしいので、どういう問題だったかなどここには書かないが、対面で、1対1で、1時間半くらいかけて行う、けっこう大変なものだった。
そして2万円くらいかかる(受けるところにもよるらしいけど)。
そっちの意味でもまあまあ大変なものなのだ。
にも関わらず俺は、テストの中盤くらいで、集中していないといけないのについつい「もう今日のメインレース終わったかな、馬券当たってるかな」とか「今日の晩は何を食おうかな、ハンバーガーかな」などどうでもいいことが頭をよぎってしまい、聞き逃してしまったために答えられなかった問題がいくつか出てきて、「こらあかんわ」と心が折れてしまいそうになったが、そこは「何か新しい経験」を求める力が上回り、なんとか最後までやり切った。
そして郵送で結果が届いてきたのがさっき。
結果は127で、これだとMENSAに提出したところでどうやら入れないのは確実らしく、俺の2万円と2時間はムダになってしまいましたとさ。
と、一概に言えるわけではなく、というのは、「WAIS-Ⅳ」というテストは、さすが2万円もするだけあって大変な優れもので、単に「あなたのIQはナンボです」と教えてくれるだけではなく、「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」の4項目でそれぞれ点数が出て、得意不得意もわかり、自分への理解を深めたり日々の生活に役立てたりすることができるのだ。
ちなみにこの4項目は、より具体的には
言語理解
言葉による推理・思考力/表現能力/状況に合わせ言葉を応用する力/学習知識力 など
知覚推理
複数刺激の関連性理解力/視覚と運動連動/空間処理力/非言語推理分析/視覚イメージ/展開予測 など
ワーキングメモリー
聞いた言葉や数字を短期間記憶する力/短期記憶を使って情報操作や結果を産出する力/注意集中力 など
処理速度
視覚的な短期記憶を使って作業する力/筆記技能/注意の持続力/視覚と運動の協応力/動機付け など
らしい。
40年近く生きてきてわかったことだが、俺は自分の能力の中で最も高いのは「情報処理の速度」だと自覚していた。
これまでの経験上、思考を伴わない単純作業をやれば他の人に比べてもめっぽう速く、事務員などの職業に就けばめちゃめちゃ優秀だったのだろうが、何故かそれとは真反対の仕事を選んでしまい、その結果、うだつが上がらないまま現在に至っている。
今さらそんなことを嘆いていても仕方がない。
MENSA入会の可能性は消えたが、自分の特性はそれなりに気になる。
もしかしたら、何か新しい発見があるかもしれない。
報告書を読み進めると、
VCI(言語理解):112
PRI(知覚推理):114
WMI(ワーキングメモリー):131
PSI(処理速度):143
そしてこれらの総合点が
FSIQ(前検査):127
だった。
処理速度が高かったのは想像通りだったが、少しショックだったのが「言語理解」の低さだ。
仮にも、一時期はライターをやっていたというのに。
また、項目間の数値の差が大きすぎると、日常生活に支障をきたす可能性が出てくるらしく、俺の場合は「ワーキングメモリー」「処理速度」と「言語理解」の数値の開きが大きいことから、
「頭の中で多くの情報が瞬時に溢れやすくなる一方で、言葉を体系立ててまとめづらく、的確なレスポンスや言語伝達、文章作成に時間を要し、もどかしさを感じやすくなる場面もあるでしょう」
と、俺宛の所見には書かれていた。
そういう場面、たしかにある。
非常に頻繁にある。
「あーこういうこと伝えたいんだけど言葉が出てこない」ってやつ。
やっと原因がわかった。
そして、所見には「データ入力などの事務処理作業では非常に高いパフォーマンスを発揮するでしょう」ともあった。
やっと俺に向いている職業が判明した。
気づくのが20年くらい遅い気もするが、「これからの人生で最も若いのは今である」なんて言葉もあるし、物事に遅すぎるなんてことはない。
MENSAの壁は高かったが、これだって十分「新しい経験」だ。