前職で取引先だった人から、突然、連絡が来た。
俺は転職してもう7年も経つし、そもそも前職でも、俺が部署を異動をして以降、取引をする案件がないから、業務での関係は10年以上も無い状態だ。
その10年の間も、ちょくちょく連絡をもらっていた。
そこでは、当時の思い出話をしたり、数年に一度は飲みに行ったりもしたのだが、そもそも、何の用があって連絡をしてきたのだろうと思い返すと、別に相談ごとや質問、依頼を受けたわけでもなく、「今日は何の用だったのですか?」と尋ねても、大体の場合において「別にたいした用事は無いのですが」という返答だった。
これは俺にとっては驚くべきことだが、世の中には、何の用事もなくても人に連絡をできる人がいる。
俺が知っているだけでも、1人や2人ではない。
なぜ驚くべきことかというと、俺にはそんなこと到底できないからであって、ではできない理由を考えてみると、相手から「で、何の用?」と思われる、もしくは言われるに違いなく、そんなことを相手に思わせたくないという俺のささやかな優しさ、そして、そんなことを言われたくない心の弱さ、この2つが原因である。
ただし断っておくが、俺自身が連絡をもらった時は、別に「で、何の用?」とは思わなかった。
(「今日は何の用だったのですか?」と尋ねたのは、後学のために敢えての行動だった)
とすれば、用件がない連絡をして、相手に「何の用?」と思わせる人とそうでない人がいる、ということになる。
この差は何に起因するのだろうか。
おっさんと女性の違い?
会話が面白い、面白くないの差?
社会的地位?
自己肯定感?
カリスマ性?
それとも人間力(という言葉は捉えようが無さすぎて何にも言及していないのと同じだが)?
断定はできないが、おそらくこれらの要素が入り混じった結果、俺は具体的な用事が無い限り人に連絡ができないままであり、用事が無くても連絡ができる人とは、人脈の広さにおいて加速度的に差が拡大していくのだろう。
そして、俺と同じ側にいる人の悩み、問題意識を煽り、商売の種にして搾取するべく、「人脈力」なんて題目がついた書籍が書店に並ぶのである。
このように、人脈の広さにおいても「r>g」の不等式が成立することはもはやほぼ自明だが、これを現代社会に提唱する人脈界のピケティは、いったいいつ現れるのだろうか。
つい先日、Radikoで「オードリーのオールナイトニッポン」を聴いていたら、春日さんが「用事もないのに人に連絡ができない」と言っていて、こんな売れている芸能人でもそう感じるものか、と思ったが、別に救われはしなかった。